さあ始めよう 道徳科授業づくり入門
ISBN:9784863871472、本体価格:円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
122頁、寸法:145×210×mm、重量g
発刊:2021/05

さあ始めよう 道徳科授業づくり入門

【監修者のことば】香川大学 名誉教授(高松大学 教授)  七條 正典
本書の発刊に際して、「道徳科の授業づくりの基礎・基本を再確認する」ことが、その趣旨の一つとして挙げられている。そこで重要となることは、「道徳科の授業の成立要因は何か」ということである。若年教員からの「道徳科の授業をどのようにつくっていけばよいのか」、ベテラン教員からの「これまでの道徳授業とは何が違うのか」という声に応えようとするならば、「道徳科の授業と言えるための要件」を具備しているかどうかということは重要な鍵となる。
元筑波大学教授の高橋進は、月間『道徳教育』(1984年4月号)の中で、「道徳の授業はいかにして成り立つか」という主題のもと、「道徳授業になっているか、なっていないか」について、①道徳授業の特質の把握、②教師の道徳観、③子どもの声を本当に聞いているかという視点から考察している。そこから学べることは、道徳科の授業の成立要件として、①その特質を踏まえていること、②指導する教師の道徳観(「われ・人ともによく生きる」ことを学べる道徳科の授業の具現化を図る)が問われていること、③教えるよりも子どもの内なるものを引き出すことの大切さである。
今回(平成27年)の学習指導要領において示された道徳科の目標では、道徳科の特質を明確化するとともに、道徳授業のイメージが持てるよう改善が図られている(①の視点)。そして、「考え、議論する道徳」につながる具体的な指導方法についても、方法論ありきではなく、子どもたちの「主体的・対話的で深い学び」を促す視点(③の視点)から、どのような指導方法が望ましいかということがポイントとなる。さらに、先の高橋が示した「われ・人ともによく生きる」ことを学べる道徳科の授業の具現化(②の視点)こそ、今回の改訂の根幹となる「主体的・対話的で深い学び」につながるものとなろう。
本書において述べられている道徳科の授業づくりの基礎・基本や、そのための工夫の視点、そして紹介されている授業事例は、まさに、高橋が考察した「道徳科の授業はいかにして成り立つか」という視点、及び今回の改訂で示された新学習指導要領の求めるこれからの道徳科の授業として具備すべき要件を踏まえてまとめられたものである。ぜひ、本書を参考にして、道徳科の特質を生かした子どもたちの心に響く道徳科の授業づくりにチャレンジしていただきたい。

【監修者のことば】~温故知新~  香川大学 教授  植田 和也
「道徳教育に携わる指導者が、はっきりとした道徳観を持つべきことは、いうまでもない。」
これは、香川県教育委員会により昭和34年3月に発刊された「道徳教育要領小学校編」の冒頭部分の言葉である。全12章の259頁にわたり、第1編道徳教育総論、第3編小学校の道徳教育としてまとめられている。驚くことに、所在の確認はできていないが第2編は幼稚園の道徳教育、第4編中学校の道徳教育、第5編高等学校の道徳教育、第6編家庭の道徳教育としても別にまとめられているようである。
昭和33年の特設道徳以来、その後6回目の改訂で特別の教科道徳が誕生することとなったが、香川県においては七條正典先生も勤務された附属高松小学校が香川県の道徳教育の発信拠点として長年、実践研究を積み重ねてこられ、香川の道徳教育を牽引されてきた。そして、平成26年頃から令和にかけて、附属坂出小学校が個々の研究教科を超えて、全教員で道徳教育に取り組み始めたのである。その流れを生み出す大きな役割を果たされたのが、清水顕人准教授や山本健太教諭であった。その過程において、研究会の体育館における道徳の全体授業にも、山本健太教諭が初めて挑戦された。令和2年度には道徳科に関する授業づくりワークショップにもオンライン併用で取り組まれて、まさに発信拠点としての大きな役割を果たしている。
本書には、その過程において地道に取り組まれてきた実践の知恵や工夫が具体的に紹介されている。まさに、指導方法に不安をもたれる若手教員にとっても、教科化になって何をどのように意識することが大切なのかを知りたい先生方にとっても大変参考になる書である。実践事例を通して、各々の道徳科の授業づくりに関する指導観だけでなく、内容項目の深い理解とともに自らの道徳観を見つめなおす一助としてほしい。特に、第1章においては、解説の関連ページを示しているので、併せて再確認をしながら読み進めることをお勧めしたい。ぜひ、本書を参考にして、道徳科の授業が一歩ずつ改善・充実することにつながることを願いたい。

【香川大学教育学部附属坂出小学校長のことば】香川大学 教授  坂井 聡
道徳が教科化され、現場の教員には質の高い道徳科の授業が求められるようになっています。しかし、一方で現場の教員は、「どのように教科としての道徳科に向き合っていけばよいのか」「これまでの道徳とは何が違うのか」といった問題に頭を悩ませているのが現状ではないかと思います。
本校では、以前より道徳の教科化を見据えた実践に取り組んできました。今現場が直面しているのと同じように、先述の悩みについて、それらを解決するために試行錯誤してきたのです。
そのような中で、これまでの試行錯誤の結果を振り返ることで見えてくるものがあり、それらをまとめて形にすることが、現場で困っている先生方の少しでも力になれるのではないかという提案がなされ、形になったのが本書です。
本書には、これまでの道徳の授業の実践の試行錯誤から導き出された理論として大切にしたいことや、多様な指導方法が示され、そこには、特別支援教育の視点も入っており、その配慮点も示しています。また、経験の浅い先生方向けの道徳科の授業づくりの基礎・基本がわかりやすく示されており、それらを再確認することもできるようになっています。現場で指導する教員が、すぐに授業として実践することができるように工夫しているのも、本書の特徴です。
ぜひ、本書を参考にして、道徳科の授業実践をしていただけたらと思います。ベテランの先生方はアレンジして、経験の浅い先生方は、この実践をそのままコピーしていただき道徳科の授業の腕を磨いていただければと思います。
本書は、香川大学教育学部附属坂出小学校の授業実践をまとめていますが、それは、道徳の教科化以前から道徳の授業を実践してきた、本校のOBである香川大学教育学部の清水先生、そして、本校で道徳科を主として担当している山本を中心に、全教員がチームとして実践してきたからこそできたものであると思っています。本書は、熱心な授業研究と授業討議、そして授業改善、本校に脈々と受け継がれてきた伝統が凝縮され一つの形になったものだと思っています。是非ご一読いただき、忌憚のないご意見、ご感想を賜ればと思っています。
今後ともご指導いただければ幸いです。

【はじめに】清水 顕人・山本 健太
「道徳科の時間のまとめはどうすればよいですか」
これは、公立学校の若手の先生方からよくいただく質問です。「まとめ」が何を意味しているのかにもよるとは思いますが、おそらくは他教科の授業の終末に見られるような「授業で学んだこと」を黒板に書き、共有するということでしょう。結論から言うと、道徳科の特質を踏まえた授業であれば、学級全員にとって唯一の「まとめ」なるものが最後に待っているということは無いはずです。しかし、そのような質問が出てくるということは、道徳は教科化によって他の教科と同じような流れで指導を行うようになったという誤解があるのではないかと感じています。
「子どもをうまく誘導できないのですが、どうすればよいですか」
これは、附属学校での教育実習に臨む大学生から聞かれた質問です。この質問をした学生は、道徳科の授業に対して、唯一絶対の価値に向かって子どもたちを誘導するという誤ったイメージをもっていたと考えられます。その学生自身が、子どもの頃に、そのような道徳の授業を受けてきたのかもしれません。
本書は、そのような若手の先生方やこれから教師を目指す学生の皆さん、またその指導を行う立場の先生方を対象に、道徳科の授業づくりの基礎・基本について、できるだけ分かりやすい書となることを目指して執筆編集しました。第1章では「学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」を中心に、道徳科の授業づくりの基本的な考え方や留意点をまとめました。第2章では、道徳科の授業をさらに充実させるための手立てなどを記しました。第3章では、授業実践を11事例紹介しています。事例の紹介にあたっては、公立学校の先生方から教材や授業に対する声をいただくとともに、教具や支援方法、発問、板書など、できるだけ具体的に示しました。また、すべての実践は、香川大学教育学部附属坂出小学校において行われた研究授業を基に、参観者からいただいたご意見を反映させ、よりよい授業となるように検討して提案しています。
子どもたちが心待ちにするような道徳科の授業づくりに向けて、本書が少しでもお役に立つことを願っています。

【目次】
監修者のことば
香川大学教育学部附属坂出小学校長のことば
はじめに
第1章 道徳科の授業づくり基礎・基本
 1 「道徳教育の目標」と「道徳科の目標」を確かめよう
 2 道徳科で大切にしたい学習を理解しよう
 3 内容項目を深く理解しよう  内容項目一覧
 4 教材を読み込み、中心的な発問と基本発問を考えよう
 5 学習指導案を作成しよう
 6 指導方法を工夫しよう
 7 評価について理解しよう
 8 家庭や地域に発信しよう
第2章 さらなる充実を目ざして
 1 若手教員に向けてのメッセージ
 2 子どもたちの問いから始まる授業
 3 子どもの自己評価や相互評価を、教師が行う評価に生かす
 4 若年研修の在り方・授業研究の工夫
 5 メタ認知を促す授業づくり
 6 道徳科の授業を支える学級経営
第3章 「特別の教科 道徳」の授業事例(小学校)
【低学年】
 1 およげないりすさん
 2 ないた赤おに
 3 黄色いベンチ
【中学年】
 4 絵葉書と切手
 5 心と心のあくしゅ
【高学年】
 6 ブランコ乗りとピエロ
 7 ロレンゾの友達
 8 銀のしょく台
 9 道子さんに出したパス
 10 のりづけされた詩
 11 友香のために
おわりに
引用・参考文献
執筆者一覧

【著者紹介】
〔監修者〕
七條 正典
植田 和也
〔編著者〕
清水 顕人
山本 健太
〔著者〕
坂井 聡
藪内 雅昭
白川 章弘
山路 晃代
好井 佑馬
片岡 亜貴子
滝井 康隆
藤本 博文
西吉 亮二
竹森 大介
〔イラスト〕
造田 朋子