特別の教科 道徳 ~授業力向上への一歩~
ISBN:9784863871335、本体価格:1,400円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
162頁、寸法:148.5×210×10mm、重量236g
発刊:2020/09
【はじめに】
教育は、人格の完成を目指して行われる営みであり、その人格を育む学校教育の中核を為すのが道徳教育と言っても過言ではない。道徳教育は学校の教育活動全体で取り組まれるものであり、その道徳教育の要となるのが「特別の教科道徳」(道徳科)の時間である。
教科化され、各地で授業の質的改善・充実が求められており、多様な授業実践が展開されている。道徳科の授業を通して、「子どもの心をどう育もうとしているのか」まさに、「人間としてのよりよい生き方や在り方」を一時間の授業で、また教育活動のなかでどのように追求していくのか、道徳科の授業を要としながら、語り合い学び合ってほしい。
本図書では、子どもたちの豊かな人間性の成長を願って、道徳教育の実践に熱い心で取り組まれている全国の実践家の先生方(青森、秋田、千葉、山梨、愛知、京都、岡山、香川、愛媛、高知、徳島、広島、福岡の各府県)にお願いすることができ、実践事例や取組を紹介していただいた。
先哲が考究した、「人は本来どう生きるべきか」等の道徳的・倫理的問いかけを、子どもだけでなく教員も道徳科の教材研究を通して、また授業中の子どもの発言を通して探究する重要性を再認識してほしい。そして、学部生や院生同士、学校の教職員と共に語り合える場や機会を大切にしたいものだ。
本書は、学部生、院生、若手教員、道徳にこれから取り組もうとする先生方を対象に、できるだけ分かりやすい道徳教育の書となることを願って執筆編集したいと考えた。第1章では、求められる授業についての視点や課題意識を踏まえた授業づくりについて記した。第2章では、授業づくり・改善へのより具体的な視点や手立てを整理し紹介した。第3章では、小学校と中学校の道徳科の授業実践を計14事例、掲載した。第4章では、道徳教育の充実に欠かせない研修や連携の取組について記した。第5章では、魅力的な教材開発と自作教材、併せて教科書教材の使用について記した。道徳科の授業づくりを考える参考
に、また道徳教育推進の一助となれば幸いである。
最後に、本書の刊行にあたり、監修、執筆をいただいた各先生方に深く感謝の意を表したい。(植田和也)
【おわりに】
2020年は世界中が「COVID-19」への対応を考えさせられた年であり、すべての人たちが「自分の在り方」を考えさせられた年である。多くの死者をもたらした「目に見えないウイルスとの戦い」は人々を不安にさせ、さまざまな問題を生じさせた。中でも「差別・偏見」について考えさせられることがあった。例えば「海外渡航者」への偏見であり、最近では「首都圏在住者」への差別・偏見である。東日本大震災で被災し、他の地域へ移住した人たちに対しての放射能関係の差別・偏見を思い出す。残念なことである。
その一方で、共に苦難を支え合おうとしたり、医療従事者を応援しようとしたりする心温まる動きもあった。その活動に救われた方も多いことだろう。「リスペクト アザーズ」。今こそ、お互いを尊重し合う気持ちが必要なのである。
このような経験のない事態にどのように向き合い、どう行動するのか。自分の生き方を考える土台づくりに大きな影響を与えるのが道徳教育なのではないだろうか。困難に直面しても折れない心をもち、物事を多面的多角的に考え、相手のことを思いやり、自分にできることを誠実に取り組もうとする姿こそ、道徳教育が目指す生き方であり、今後の「経験のない事態」にもよりよく対応することができる力となる。本書はその手がかりの一つである。
また、本書は全国の道徳教育の最前線で取り組む研究者と授業者が一体となって作成した書籍である。特に、1冊の中に授業づくりの理論や小・中学校の実践例に加え、校内研修や開発した道徳教材まで掲載している書籍は他に類をみない。まさに「特別の教科 道徳」の充実のために大いに参考になる書籍である。全国各地のすばらしい実践に触れ、自分自身の実践を見直すとともに併せて「小・中学校のつながり」の視点でも捉えてほしい。各実践を系統的に捉えたとき、今後の実践に生かすことができる点があると考える。
このように本書は充実した内容で、経験の少ない教員からベテランの教員まで興味をもって読んでいただける示唆に富んだ書籍に仕上がったと自負している。本書をきっかけに、先生方が道徳授業を愉しんでほしい。
最後に本書の刊行にあたり、ご多用の中、魅力的な原稿を執筆していただいた先生方に感謝したい。ありがとうございました。(土田雄一)
【目次】
はじめに
第1章 「特別の教科道徳」において求められる授業
1 道徳科において大切にしたい授業づくりの視点~道徳科の特質を生かした「主体的・対話的で深い学び」のある授業~
2 道徳科の授業における哲学的・倫理学的問い
3 指導と評価の一体化を大切にした授業づくり・授業改善~道徳授業のPDCAサイクル~
4 教員の課題意識を踏まえた道徳科の授業づくり
第2章 授業づくり・授業改善への大切にしたい視点
1 授業分析や記録を生かした授業改善への一歩
2 自己を見つめる活動を大切にした授業づくり~道徳科の授業における自己内対話とは~
3 多面的・多角的な思考を促す多様な指導方法の工夫
4 教材分析を大切にした道徳科の発問構成
5 特別な支援の必要な子どもへの配慮を生かした授業づくり
6 情報モラルに関する教材を扱う際に大切にしたい点
第3章 「特別の教科道徳」の実践事例
1 小学校第1学年での実践事例「おじいちゃんのたんざく」
2 小学校第2学年での実践事例「だっこしながら」
3 小学校第3学年での実践事例「一さつのおくりもの」
4 小学校第4学年での実践事例「心と心のあく手」
5 小学校第5学年での実践事例「友のしょうぞう画」
6 小学校第5学年での実践事例「ぼくは伴走者」
7 小学校第6学年での実践事例「ここを走れば」
8 小学校第6学年での実践事例「こだわりのイナバウアー」
9 小学校特別支援学級(自閉症・情緒)での実践事例「ひびが入った水そう」
10 中学校第1学年での実践事例「バスと赤ちゃん」
11 中学校第2学年での実践事例「海と空-樫野の人々-」
12 中学校第3学年での実践事例「二通の手紙」
13 中学校第3学年での実践事例「足袋の季節」
14 中学校特別支援学級(自閉症・情緒)での実践事例「六千人の命のビザ」
第4章 道徳教育の充実に向けた推進体制や校内研修・学年団研修
1 道徳科を要とした道徳教育の推進
2 校内研修・学年団研修の多様な在り方
3 多様な研修の実際~授業討議の工夫と道徳ノートの活用~
4 校内の活性化を図る研修
5 多様な研修の実際~30分研修シートの活用~
6 家庭や地域との連携を生かした道徳教育の推進~道徳ファイルの活用を通して~
第5章 魅力的な教材開発への挑戦
1 教科書教材の使用と教材の開発の視点
2 自作教材への挑戦 ~具体的な手順と留意点~
3 自作教材の事例①「九月のさわやかな風」
4 自作教材の事例②「ふるさとの銭形砂絵」
5 自作教材の事例③「サシバのピコロ」
おわりに
執筆者一覧
編著者紹介
【著者紹介】
〔監修者〕
七條 正典
櫻井 佳樹
〔編著者〕
植田 和也
毛内 嘉威
土田 雄一
齋藤 嘉則
松田 憲子
〔著者〕
近藤 広理
山本 木ノ実
金綱 知征
有馬 葉子
進藤 澄子
石飛 佳苗子
長野 真美
木下 美紀
佐藤 範子
岩井 由美子
堀井 綾子
山本 健太
原 洋子
村田 寿美子
山本 理恵
佐々木 篤史
鈴木 賢一
小島 啓明
清水 顕人
石川 春奈
折野 智美
〔イラスト〕
佐々木 啓祐