未来への扉を拓く道徳教育
ISBN:9784863870574、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C3037(専門/単行本/社会科学/教育)
138頁、寸法:210×297×6mm、重量443g
発刊:2015/05

未来への扉を拓く道徳教育

【はじめに】
 「特別の教科化道徳」としての方向性が中央教育審議会で示された。だが,校内研修等で道徳を扱う学校は必ずしも多くない。若年教員が増え,道徳の授業技術や豊かな指導方法等の伝授も難しい状況である。また,香川県の道徳教育関連研究団体等における若手教員の参加についても伸び悩んでいる状況である。そして,道徳教育を担う教師はいかにキャリア形成しつつ実践力を継承するかが,重要な課題となっている。このような状況ではあるが,香川大学教育学部では,附属学校教員の協力を得て,教育実習中に道徳の授業実践に取り組む姿が増えつつある。
 本書は,香川大学教育学部の道徳教育関係教員と同附属小・中学校道徳教育関係教員との協働による研究の成果を基盤とし,県内道徳教育関係教員及び県内外の香川大学教育学部出身の道徳教育関係教員の研究成果も組み込み,6章で構成した。

 第1章「道徳教育への誘い」では,道徳教育の重要性や現代社会の諸問題に迫る道徳教育,教育活動全体で取り組むために重要なポイント等を中心に述べている。
 第2章「道徳教育の現状と改善への期待」では,道徳授業への不安や悩みからみえる課題,若年教員への期待,道徳教育推進教師の役割と今後への期待等を分かりやすく述べている。若い教員や教員を目指す者が,道徳教育や教科化の背景に関しても理解を深められるように心がけたつもりである。
 第3章「道徳教育の充実と広がり」では,道徳教育と深いかかわりのある生徒指導,学級経営や新しい課題であるESD,ケア,学校経営等との立場から道徳教育について述べている。さらに,環境問題等についても言及している。
 第4章「小学校の部屋」では,若年教員でも分かるような記述に心がけつつ,具体的な実践をもとに授業実践を紹介している。
 第5章「中学校の部屋」では,中学校の実態に応じた多様な方法による道徳授業や教育実習生の道徳授業も紹介している。若年教員や中学校での道徳の授業の充実に貢献できるものと考えている。
 最後の第6章「広がりの部屋」では,幼稚園,高等学校,少年院での取組を具体的に紹介している。従来の類書では,幼児期から高校までの取組を掲載したものは見られないことから,貴重なものとなりうると確信している。

 以上,本書では,道徳教育に関する現状の課題を見すえ,教科化の方針を踏まえた実践づくりの実際を分りやすく提示することに心がけた。
 最後に,本書の刊行にあたり,香川大学教育学部学術基金より出版助成金をいただいた。記して感謝の意を表するものである。
  2014年11月23日 七條正典  伊藤裕康

【おわりに】
 編者の道徳授業体験で記憶に残っているのは中学校でのものである。その他は全然記憶にない。ただし,好ましい意味で記憶に残っているのではない。文部省指定の道徳教育研究発表会が中学校2年生時にあった。2年生になり急に学級会が増え,室長(学級委員)だった私は,その司会に苦労したのを覚えている。今思えば,公開発表に向けての布石であろう。研究会当日まで道徳授業が毎週欠かさずあった。道徳授業の度に,教師の望む答えを先回りして答えるのが道徳の時間であると思った。研究会当日の資料も答えが容易に分かるものであった。授業では誰も発言せず,重苦しい雰囲気がクラスを包んだ。室長として責任を感じた私は,意を決し先生が望む答えを最初に発表した。この発表を皮切りに発言が出始めた。次週の朝会,校長先生が「文部省の先生が研究発表を大変褒めておられた」とおっしゃられた。「そんなことないのに」と強く違和感を持ったことを覚えている。
 教員養成系の大学に入学し,受けた道徳授業も,道徳教育の歴史や原論等であった。テキストは村井実著『道徳は教えられるか』国土社である。大変有名な名著ではある。このテキストに関する内容は鮮明な記憶がある。欲を言えば,現場では必ず道徳授業をすることになるので,学生が教育現場に出て直面することを射程に入れた実践面での授業内容の時間もほしかった。教育実習では道徳授業を必ずさせられた。「意味」の見いだせない中学校での道徳授業体験と道徳授業方法が不十分であった道徳教育法の授業体験しかなく,大変困った。同じ学校に配属された友人から二分法を教えてもらい,四苦八苦してどうにか実習を終えた。
 教育現場に出てからは子どもに申し訳ないと思いつつも,しばらく満足に道徳授業ができなかった。教育現場を経て教員養成の現場に身を置き,毎週道徳授業を受けた体験があるだけ,教育実習で道徳授業をさせてもらっただけで幸運だったことが分かった。現場では毎週道徳授業をすることは少なかった。「はじめに」でふれたように,必ずしも今はそうではない。香川大学では,附属学校の先生方の協力のもと殆どの学生達は教育実習で道徳授業を体験している。編者のような苦労は教育を目指す学生にさせたくない,何より子どもがかわいそうである。
 本書は,「特別の教科化道徳」としての方向性が示され,従来以上に道徳教育が問われているにもかかわらず,若年教員が増えて道徳の授業技術や豊かな指導方法等の伝授も難しい状況の中で,少しでも我々なりに道徳教育に資することが出来ないかを模索したものである。
 『体育の子』の筆者であり,体育教師として名高い佐々木賢太郎は,人間性を喪失した技術主義に陥ることを戒め,「体育の教師は体の技師であると同時に魂の技師でなければならない」と言った。道徳の指導技術の継承とともに,道徳教員としての「魂の技師」についても考え続けていかなければならず,さらに模索していかなければならないと考えている。
  伊藤裕康

【目次】
はじめに
第1章道徳教育への誘い
 1 道徳教育の重要性~道徳教育の実質化:心に響く魅力ある道徳授業~
 2 現代社会の諸問題に迫る道徳教育
 3 哲学・倫理学から道徳教育を考える
 4 教育課程における位置づけと今後の課題
 5 教育活動全体で取り組む道徳教育の充実をめざして
第2章道徳教育の現状と改善への期待
 1 教員養成における道徳教育の課題と改善への視点
 2 道徳授業に対する不安や悩みからみえる課題
 3 管理職から若年教員への期待
 4 道徳教育推進教師の役割と今後への期待
第3章道徳教育の充実と広がり
 1 道徳教育と生徒指導
 2 道徳教育と学級経営
 3 道徳教育におけるESD(持続発展教育)
 4 道徳教育とケア
 5 道徳教育と学校経営
第4章小学校の部屋
 1 小学校における道徳教育での実践の充実のために
 2 児童が主体的に考え,学ぶ道徳授業
 3 生活科との連携による道徳授業
 4 総合的な学習の時間との連携による道徳授業
 5 社会の問題から学ぶ道徳の授業~NIEファミリーフォーカスを活用して~
 6 郷土の自作資料の開発
 7 教育実習生の道徳授業から
 8 『私たちの道徳』を活用した道徳授業
 9 資料 いのちに関するブックリスト
 10 資料 『こころのノート』と『わたしたちの道徳』の比較 3-.の内容
第5章中学校の部屋
 1 中学校における道徳教育での実践の充実のために
 2 宗教に関わる問題と道徳教育
 3 多様な方法による道徳授業
 4 学校経営と道徳教育~全校集会・学年団道徳・全校道徳からの発信~
 5 命の大切さを学ぶ道徳教育
 6 教育実習生の道徳授業から
 7 『私たちの道徳』の活用
第6章広がりの部屋~幼稚園、高等学校、少年院での取り組み~
 1 幼児期に大切にしたい視点~道徳性の芽生えを大切に~
 2 附属幼稚園における実践~保育記録・事例研究を大切にした取り組み~
 3 幼稚園での実践~「朝市」をとおして道徳性の芽生えを~
 4 高等学校における道徳教育の実践について
 5 少年院におけるモラルジレンマ集会の実践について
おわりに

【著者紹介】
〔編著者〕
七條 正典
伊藤 裕康
櫻井 佳樹
植田 和也
山岸 知幸
谷本 里都子
〔著者〕
相賀 啓太郎
太田 晶子
片岡 元子
金倉 吏志
日下 哲也
黒田 拓志
近藤 貴代
佐立 明
清水 顕人
高木 愛
野村 一夫
福家 亜希子
前 裕美
宮脇 充広
宮脇 啓
山下 真弓
山城 貴彦
山本 木ノ実
横山 友亮
吉原 聖人