四国遍路から経済を見る
ISBN:9784863871748、本体価格:1,000円
日本図書コード分類:C3033(専門/単行本/社会科学/経済財政統計)
102頁、寸法:148.5×210×5mm、重量142g
発刊:2022/12
【はじめに】
「四国遍路の経済効果を考える」というタイトルを2007年度の3年生のゼミナールに掲げた。経済学部の学生にとって,四国遍路が地域に及ぼしている影響を自分たちの住む四国という視野において考えようとした。ゼミ生選考の結果,14名もの学生がゼミに集まった。最初に自由な議論の中で,四国遍路が四国の経済にどのような影響を及ぼしているのだろうか想像することから始まった。四国遍路はどのくらいのお金を四国にもたらしているのであろうか?経済への効果といっても旅行に使った実際のお金から,遍路が果たしている四国のイメージのような価値まで含めると,経済への貢献は小さくなったり,大きくなったりした。いったいなぜ四国に来ようという実際の行動につながるのだろうか?四国遍路をすることは一種の観光なのだろうか?それとも宗教行為なのだろうか?四国地方にはじまった民衆の習俗が拡大したものだろうか?さまざまな意見が出され,どれも少しずつあたっているように思えた。経済学部の学生が考える四国遍路へのアプローチという視点から考えると,私達は遍路が主に旅行にまつわる消費行動によって四国経済に貢献している点について考えることを出発点とした。
また同じ頃に「四国遍路を世界文化遺産に登録したい」という要望を実現化する動きが四国で始まった。こちらは四国四県の経済団体の発案に主導される形で各県の行政が共同して活動を始めた。もし近いうちに,四国遍路が世界遺産に登録されればどうなるのだろうかと,私達も想像の世界を広げた。人類の培ってきた遺産として,四国遍路が未来永劫に保存されることが約束されることである。四国遍路にまつわる現象のうちで,一体保存されるべき価値をもつものは何であろうか?世界遺産に登録されると,四国遍路の文化価値が世界に発信される。世界遺産への指定は,地域文化の世界に向けての情報発信力としては抜群であると思われる。世界というレベルで保存すべき文化遺産と認められることは,世界の人の関心となって四国にはね返ってくる。目に見える形として,訪問客の増加が今までの状況を一変させるであろう。来訪者による出費がもたらす経済効果はいかほどの物と考えると良いのだろうか。このように,想像される問題をゼミで学生と考えた。こういう想像をはばたかせる前の問題として,現在,何人の遍路が,四国に来ているのだろうかという話題になった。このデータを探したが明快な形で述べたレポートに出会えなかった。
ではまず,どのような性格を持った人がどれくらい遍路となって四国に来ているのだろうかという問題を掲げ,私達のゼミ活動で取り組んでみようとの結論となった。
「経済効果の探求」という大きい目標に行き着くために,その手前にあるどうしても手にしたい「一体どのくらいの人が遍路を行っているのか」という情報を得る努力をすることとなった。目的は,遍路が何人来ているのだろうかという疑問である。1年中毎日,遍路をしている人を数えることはできない。できるだけ,労力をかけない方法で,効率よく遍路の数を知ることを考えた。ある一ヶ所の寺院で定点観測をする形で数の捕捉をすることを考えた。少なくとも月のうち,1日については正確な数字を出したい。そのためどのような調査を実施するかということを考えた。ゼミの学生の人数も限られているし,彼らが調査に使える時間にも限度がある。調査の頻度と調査場所,そしてどのような調査をするのかという調査の内容をまず考えた。月に1回,遍路が訪れる時間の全てにおいて,一つの寺院で監視することとした。具体的には一寺院で納経所の開く午前7時から午後5時までの10時間に訪れる遍路の数を1時間ごとに区切って把握することとした。
さらに遍路をしている人に聞くアンケート調査を考えた。経済効果を聞くためにどういう質問が適切かという議論をゼミで行った。四国に来て使ったお金について知りたい。でも徒歩とか自家用車によっても,日数によって使う金額は違うだろうとか,あまり直接にお金を聞くのは失礼だろうとか意見が出た。
なぜ遍路を行っているのかという目的については外せなかった。信仰か,観光か,学生にとっても知りたい点であった。四国を回っていて,四国の経済効果につながるものはないだろうかとか,宿泊についてもどれくらいの費用を使っているのだろうかと素朴な疑問をぶつけることにした。またアンケートの質問項目も出来るだけ少なくし,どうしても欲しい情報に限定して考えた。
どこの寺院で調査するかが,次に頭を悩ました点である。香川大学から近い寺院で,学生が調査に通うことを考える必要があった。私達の意図を理解して許容してもらえる寺院を探すことに一番心を砕いた。幸いに,82番札所の根香寺のご住職に調査を快諾してもらえて,やっと軌道に乗ることとなった。そのとき高松市の観光課の方々にお口添え頂いた。心から感謝しております。また幸いなことに根香寺は山門の脇に駐車場があり,1本の脇道があるだけで山門のそばに立てば,ほぼ参詣者の数を把握することができるという寺内の道の都合のよさもあった。
またこの調査について別の機会にお話を申し上げることができた中小企業基盤整備機構四国支部よりこの研究に対して研究費をいただくことができ,学生のアンケート調査と,各地の札所の門前の経済活動の調査に使わせていただいた。このことは学生にとって心強い応援であった。心から感謝の気持ちを申し上げます。具体的には,82番札所根香寺の門前での月一回の調査と,夏休み等の休暇を利用して,四国内の札所寺院の門前に出かけることを企画し,調査旅費に使わせていただいた。主に聞き取り調査により,門前に展開する商業や宿泊などの遍路を相手にするサービス機能について,実際の経済活動をどのように考えて行われているかという調査を行った。徳島県と,高知県・愛媛県の一部の寺院の門前で調査することができた。この調査は1年間の期間に収めるには思ったより皆のスケジュールを合わせるのが困難だった。全部の寺院について調査を行うことができなかった。結果としてその札所の周辺の土地柄や,それぞれの調査者の興味により,不揃いな報告であるが,第8章~第13章に掲載した。
【目次】
まえがき(田井邦明)
第1章 「四国遍路から経済を見る」 調査のきっかけ(稲田道彦)
第2章 四国遍路文化を観光資源として考えるという立場について(稲田道彦)
第3章 遍路に来る人たち(沖村孝輔・中川 力・藤澤真吾・松内優樹)
第4章 お遍路さんが好む旅の形(今泉良平・弓削英大・吉田隼人)
第5章 人はなぜ遍路をするのか(森藤尊広・西森友香・長野真木綿)
第6章 遍路は年齢によって変わっていくものだろうか(中釜啓太・杉原順一)
第7章 遍路は贅沢か?(田井邦明・池田知之)
第8章 徳島県の札所周辺の商業機能(藤澤真吾)
第9章 難所を越えれば宿が歓迎(池田知之)
第10章 観光名所をともなった札所寺院の周辺の商業機能(松内優樹)
第11章 高知市周辺の遍路寺院と札所周辺の商業機能(中川 力)
第12章 新名物発見!?でも…(田井邦明)
第13章 観光遍路の発信源となった愛媛の企業(今泉良平・長野真木綿・弓削英大・吉田隼人)
第14章 四国遍路の世界遺産登録と四国遍路を観光資源とすることについて(稲田道彦)
付録 人数調査集計データ
付録 アンケート集計データ 根香寺調査(ʼ07/05~ʼ08/09)
付録 四国遍路88ヵ所札所地図
付録 88ヵ所寺院リスト
あとがき(稲田道彦)
【著者紹介】
〔編集者〕
香川大学経済学部地域社会システム学科