ASEAN諸国の科学技術情勢
ISBN:9784863870628、本体価格:1,200円
日本図書コード分類:C0040(一般/単行本/自然科学/自然科学総記)
288頁、寸法:128×189×17.5mm、重量283g
発刊:2015/07

ASEAN諸国の科学技術情勢

【はじめに】
 ASEAN諸国の経済発展については、近年かなり話題に上ることが多いが、科学技術の進展という面ではシンガポールを除いてそれほど注目されてこなかった。しかし、中国における人件費の高騰や外交関係の政治問題化に伴い、「チャイナ・プラスワン」といわれる経営戦略が広く日本企業に浸透した結果、従来から日本と深い関係にあったタイ、ベトナム、インドネシアだけでなく、ミャンマー、ラオス、カンボジアといった国々にも日本企業の進出が増加したこと等により、これらの国々で経済成長が進んでいるといわれている。経済成長がある程度進んでくると、その経済成長をさらに維持発展させるため国内における科学技術振興政策が拡大強化されるのは、これまで世界各国で見られた流れである。本書は、経済成長著しいASEAN諸国において、科学技術がどの程度進展しているかについて調査分析し、それをとりまとめたものである。

 調査結果の概要を述べれば、 ASEAN諸国における科学技術全般の進展状況は、経済での大きな進展と比較してそれほど急激ではない。
 シンガポールが欧米や日本並みの先進国的なパフォーマンスを見せていることを除き、他のほとんどの国では科学技術に関するインフラ整備や高度人材の育成が中心であり、まだ世界の科学技術の最前線で貢献するといった状況にはない。シンガポールに続いて比較的高いレベルにあると考えられるのはマレーシアとタイであり、この2か国とシンガポールを合わせた3か国が、日本、中国、韓国の研究者と実質的な協力関係を結ぶレベルにあると考えられる。
 次に続くのは、ベトナム、インドネシア、フィリピンである。これらの国々は、人口も多く今後より経済が発展すると大きなインパクトを持ってくると考えられるが、現時点では今一歩と考えられる。
 ASEAN諸国の残り4か国のうち、カンボジア、ラオス、ミャンマーの3か国は国づくりやインフラ作りに忙しく、まだ本格的な科学技術活動を実施していないといえる。また、ブルネイは資源大国であり、科学技術活動を積極的に行う必然性に欠ける。
 しかしいずれの国においても、国力や経済において科学技術が占める重要性を十分に認識し、それぞれの国なりに科学技術の振興に努力している。特に東南アジア特有の地理的環境や生物多様性などの特徴に基づくバイオ関係の研究が、各国で行われていることは興味深い。

 これらのASEAN諸国と日本との科学技術協力であるが、シンガポールなど一部を除いては引き続き日本の研究レベルが遥かに高く、日本側への直接的なメリットは現時点でそれほど大きくない。しかし注目すべきことは、 ASEAN諸国の眼が日本にだけ向いているわけではないことである。科学技術分野においても成長著しい中国は既にASEAN諸国に対する経済的な結びつきを強化しており、また韓国も政府だけでなくサムソン等が企業戦略の一環としてASEAN諸国の人材養成に積極的である。
 ASEAN諸国が過去と同様に日本との関係を極めて重要と考えているという先入観を捨て去り、これら諸国の現状を十分に把握し、それぞれの国の状況に応じた科学技術協力関係を戦略的に構築していく努力が必要と考えられる。本書がその一助になれば幸甚である。
平成27年6月
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
海外動向ユニット 上席フェロー 林 幸秀

【おわりに】
 本書は、国立研究開発法人「科学技術振興機構」(JST)の内部組織である研究開発戦略センターに所属する海外動向ユニットの職員が中心となって作成したものである。具体的に各章の担当は、下記のとおりである。なお、小林治はJSTの職員ではあるが、シンガボール事務所長であり、研究開発戦略センターには属していない。また、下記の職員に加え、海外動向ユニットの樋口壮人がベトナムの作成補助と各章の図表調整等を行った。
 それぞれの部分は、この担当者が文責を負うことになるが、全体の調整を行った林が併せて文責を有していることを付言する。

序 章 林  幸秀
第1章 小林  治
第2章 辻野 照久
第3章 津田 憂子
第4章 植田 秀史
第5章 津田 憂子
第6章 山下  泉
第7章 澤田 朋子
第8章 山下  泉
第9章 辻野 照久
第10章 澤田 朋子

 本書の各章の扉に、各国の地図に併せて関連した図柄の切手を説明を付して掲載している。これらの切手は、世界的な切手収集家であり本書の執筆者の一人でもある辻野照久氏から提供いただいたことを付言し、感謝の意を表したい。

執筆者一同を代表して  林 幸秀

【目次】
はじめに
序章 ASEANについて
 1.ASEAN
 2.ASEAN COST
 3.ASEAN諸国の科学技術概況
第1章 シンガポール
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.高等教育と大学
 4.科学技術指標
 5.国際協力
 6.トピックス
 7.まとめ
第2章 マレーシア
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術実施機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第3章 タイ
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.公的研究機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第4章 ベトナム
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術実施機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第5章 インドネシア
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術実施機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第6章 フィリピン
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術実施機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第7章 カンボジア
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.高等教育と大学
 4.科学技術指標
 5.国際協力
 6.トピックス
 7.まとめ
第8章 ラオス
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術関連機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
第9章 ブルネイ
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.高等教育と大学
 4.科学技術指標
 5.国際協力
 6.トピックス
 7.まとめ
第10章 ミャンマー
 1.国情
 2.科学技術体制と政策
 3.科学技術関連機関
 4.高等教育と大学
 5.科学技術指標
 6.国際協力
 7.トピックス
 8.まとめ
参考資料
おわりに
筆者紹介

【著者紹介】
〔編著者〕
林 幸秀
〔著者〕
小林 治
辻野 照久
津田 憂子
植田 秀史
山下 泉
澤田 朋子
樋口 壮人