必携 小説の作法
ISBN:9784863870000、本体価格:1,300円
日本図書コード分類:C0095(一般/単行本/文学/日本文学評論随筆その他)
183頁、寸法:128×186×14mm、重量g
発刊:2009/05

必携 小説の作法

【あとがき】
 「文章読本」や「小説の書き方」といった類いの本は、基本的に初心者向けのものにはちがいないが、書くほうからいうと決して楽な仕事ではないようだ。作家たちがその種の本を書くとき、多かれ少なかれ苦労をしているのがわかる。その出来映えはさまざまで、著者の特徴がよく出ていて面白いが、それだけに便利な指南書というものからは遠くなりがちである。
 博覧強記のもの、才気縦横といったもの、新しい考え方を貫こうとしたものなどいろいろとある。だが、初心者がそれを十分に利用するのはなかなかむつかしいだろうと思わざるを得ない。読んで面白いものであればあるほど、読者は著者の手中に引きこまれ、あるいは振りまわされて、読む立場から書く立場へとうまく移行できないということになりがちではなかろうか。
 戦前の谷崎潤一郎『文章読本』は、「文章に実用的と芸術的との区別はない」という大前提をたて、「通俗を旨とした」読本ということで押し通してある。あくまでも一般人の文章の心得を、文学の専門家の知識と経験を披瀝しながらくわしく助言したものである。その後の諸家の文章読本は、文学言語としての日本語を論じて、むしろ「小説の書き方」の本に近くなってくる。小説論的文章論といったものが多い。
 本書は文章読本ではなく、小説の作(さく) 法(ほう) についての本である。が、谷崎が「実用」ということから離れまいとしたように、本書もなるべく実践的に、小説制作の実際に即してくわしく助言しようとした。本書を読む人を単なる読者の立場にとどめておくのではなく、はじめから書く側の立場に立ってもらい、作業上の問題にも立ち入るようにしながら説明を試みた。なるべく「使える」指南書に近づけようとしたが、それがうまくいっているかどうか、ともかくこんなかたちのものになった。
 書くときに直面するはずの問題をひととおり考えてある。問題をひとつひとつ乗り越えてもらうための助言に徹したつもりだが、私の考えの幅や守備範囲といったものが見えるものになったかもしれない。だとすれば、この助言集のようなものは、つまるところ私の小説論だということにもなるにちがいない。
 小説教室で多くの人に触れ、たくさんの作品を読みつづけて30年になる。世の中には、小説になるようないい材料をもった人がたくさんいる。また、特別な材料ではなくても、ちょっとした工夫で面白い小説にする才能をもった人も少なくない。私はそんな人々のすぐ脇に立って気がついたことを言ってきただけだが、本書もそれとほぼ同じような仕事だといっていい。
 「必携」と銘うったのは、一度通読するだけでなく、折りにふれて参照し何らかのヒントを得てほしいと思ったからである。本書が多くの人の身近にあって、小説を書く日々の苦労の支えになってくれるようにと願っている。
  2009年3月  尾高 修也

【目次】
〔書き出す前に〕
 映画のような組みたて方
 映像イメージには頼れない
 小説は結果がすべて
 「書く」べきか「語る」べきか
 どの視点で語ればいいか
 物語の真実味
 限定すること、截りとること
 モデルをつかう
 人間の生きる場所
 関係を書く
〔書きながら考える〕
 具体的ということ
 説明と描写
 細部をつくる
 モノにものをいわせる
 場面を描く
 時点について
 小説の時間
 心理を踏まえる
 展開の問題
 話のヤマ、話のオチ
 手がかりを与える
 地の文と会話
 比喩に気をつける
〔書きあげてから〕
 題をどうするか
 何を捨てるか
 書きこみということ
 推敲について
〔「人物」の描き方〕
 外貌、姿態、動作を描く
 会話によって描く
 暮らしぶりを描く
 時代風俗と人物
 人物の象徴化
〔質疑応答〕
 いまの時代に小説をもっと自由に考えたいのですが。
 小説の書き方を小説教室などで学ぶ意味は?
 「純文学」と「エンタテインメント」との違いは?
 小説は読者に訴えるメッセージを持つべきではないでしょうか。
 「私小説」とフィクションをどう考えたらいいでしょうか。
 語りの小説と客観描写の小説の違いは?
 現代小説に心理描写や自然描写は必要ですか。
 材料の古さと新しさの問題は?
 型やぶりな文章や自己流の表現はどこまで許されますか。
 模倣ということをどう考えるべきですか。
 いま翻訳調の文章ばかり多すぎませんか。
〔添削教室〕
あとがき
表紙カバー原画 若松光一郎

【著者紹介】
〔著者〕
尾高 修也